メタバースは,GAFAの一角をなしている一企業のメタバース関連への事業参入と社名の変更によって,大きく注目されるに至った。それに軌を一にして,メディア等でも取り上げられるバズワードとしての扱いが見受けられるようになった。
メタバース「的な」ものは,ITの歴史を見ると「新参」のサービスでは無いように見える。メタバース的な類似サービスは,古くは2000年代までには立ち上がっており,3DCG空間を売り物したSNSでは大手の広告代理店が事業にこぞって参入するなど,当時の日本で注目された類似サービスも無かったわけではない。
そもそもメタバースの定義も曖昧な部分もある。現実と異なるつながりを持つITを用いた空間であれば,従来のネットワークサービスやSNSなどのサービスと何が異なるのか明瞭ではない。また既存のゲームサービスもメタバースに含まれるとする解説もあるが,そこでの有料ポイントやアイテムの流通を備える過去のメタバース類似サービスと,今注目される「メタバース」の差が明瞭に示されることがない。
しかしながら,メタバースの持つ「響き」はたいそう魅力的である。かつて目にしたメタバース類似サービスとは異なる何かが,そこにはある。
例えばポストスマートフォンとしての新しいハードウエア(ITガジェット)普及の目論見である。ここ数年でVR関連ハードウエアが高性能・低価格化し,サービスとして普及の可能性が視野に入ってきた。関連のIT企業群は,3DCG技術などのVR関連だけで無く,コントローラを用いない非接触インターフェイスの物体認識デバイスのハンドリングや,高速で正確な位置検出技術・平面同定技術などチャレンジ性の高い技術を,よい「経験」を普及させるための手段として位置づけようとしている。
また,新たな経済領域を形成するサービスとしての期待も見逃せない。新型コロナウイルス感染症は働き方を大きく変え,従来の固定的な「ハコモノ」を維持するよりは,テレワークを中心とした社員の働き方のモチベーションの向上にシフトするあり方に移行する企業も報道された。その際にもメタバースに関連付けようとする報道・論調も見受けられる。またメタバース内通貨や流通手段としてNFT(非代替性トークン)やブロックチェーン技術の適用も一部で見られるようになった。
このように「いつか見たサービスにプラスアルファ」する形で新たな経済圏を目論むものがメタバースであるとすれば,我々は何を今として捉え,何に今後注目すればいいのか。本大会では2つのポイントに注目したい。ひとつは今のメタバースの有り様である。これについては識者や実践者の方をお招きする講演の中で明らかにしていきたい。もう一つはメタバースを支える技術やコンテンツである。技術に関しては非常にチャレンジ性が高いため,現在でも解決するべき難問が控えている。技術・コンテンツの問題については「特定自由論題:ショートペーパセッション」で学会外からも発表を募り,広い視野で議論を進めたい。ショートペーパセッションにおいては,この点のみならず会員の研究ももちろん広く紹介したい。会員各位の積極的な発表・応募をお願いする。