今回の会場となる東海大学は、増幅器を利用した長距離通信、周波数の異なる伝送波を用いた多重通信、通信ケーブルを螺旋状にねじることで混信を減らす無装荷ケーブルなどの今日の電気通信でも活用されている数々の発明を起源としている。またそれらの技術を発展させFM放送局をいち早く開設し、日本で初めてラジオ放送を使った通信教育制の高等学校を開設し、経済的に進学が困難な生徒にも高校教育の場を提供した。いわば今日の情報通信の礎を築くことに寄与したといっても過言ではない。
21世紀に入りインターネットを経由した情報通信技術が進歩し、テレビ会議などの顔を見ながらのコミュニケーションが可能となった。これにより、遠隔での医療や教育、ビジネスでの面談が可能となったが、特に我が国では、ビジネスや生活の中でフェイストゥーフェイスでのコミュニケーションが重視される傾向が強く、普及の遅緩が見受けられる。
ところが2019年の年末より世の中はコロナ禍によって必要に迫られ、遠隔技術が凄まじい勢いで普及した。10年飛び越えたという研究者もいるが、必要に加速されたテクノロジーの進歩と、人々の意識の変化を加味すれば、それ以上の進展かもしれない。そのような環境下では、労働環境も大きく変化し、リモートワークを前提とした勤務体系や、遠隔授業を基本とした教育が普及し、ニューノーマルと呼ばれる新しい労働・生活の常識が定着したともいわれている。
そして2023年5月8日に、新型コロナの感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザなどと同じ5類に移行することが正式に決定された。これによりアフターコロナ時代が幕をあけ、事実上はコロナ禍以前の生活が戻ってくることになる。
その一方で、ニューノーマル下では、首都圏への一極集中が緩和され、通勤や移動によるストレスから解放され、ワークライフバランスの改善により労働環境が改善されるとともに、企業の生産性も向上することから、継続してリモートワークを採用する企業も珍しくない。
しかし、前述のようにビデオ会議が技術的に可能となってもそれがなかなか普及しなかった我が国において、アフターコロナ時代でも、ニューノーマルがノーマルとなりつづけるのか。
確かに、テレビ会議は、国を跨いだような現実的に物理的な移動が困難な主体間でのコミュニケーションでは大変有効である。学生の就職面接においても、リモート面接を活用すれば企業は、全国から、場合によっては世界中から、有能な学生を募ることができる。しかし、実際に集うことにより生まれる人間関係や、実際に会うことによってわかりあえることもある。
今回の全国大会では、電気通信や通信教育発祥の東海大学で、アフターコロナ時代の情報経営について、議論を展開していただきたく存じる次第である。